ビール業界ほど「トップ4」(アサヒ、キリン、サントリー、サッポロ)が強い影響力を持つ業界はありません。
高齢化と、缶チューハイなどRTDの伸びに見られる嗜好の変化は、日本人のビール離れを加速させ、近年ビール消費量は毎年2.5%ずつ減少しています。
しかし、このような状況下でもいくつかのヒットが生まれています。そのうちの一つは2018年にマーケティング力で定評のあるキリンがリリースした新ジャンル(第3のビール)の「本麒麟」で、発売直後から大ヒットとなり、業界全体を盛り上げ、キリンの過去10年間に発売された新商品の中で売り上げナンバー1となりました。
その後、クラフトビールのムーブメントが登場しました。このムーブメントは一過性のものに終わることなく日本社会に浸透し、クラフトビールはいわゆる「ビールオタク」に留まらない、幅広い年齢・社会層に受け入れられるようになっています。
クラフトビールの存在感が高まるにつれ、醸造所の数も着実に増え続けています。コロナウィルスによる「緊急事態宣言」の発令期間中、コンビニエンスストアでのクラフトビールの売り上げは全国的に過去最高を記録しました。このことは日本中のビールメーカー、醸造所にとって素晴らしいニュースとなりました。
一方、ビール業界大手の動きに目を向けると、キリンとサントリーが10年前に経営統合に失敗してからというもの、今後も4大トップメーカー内でM&Aが現実味を帯びる事はなさそうです。各社共、近年それぞれ異なった成長戦略をとっており、アサヒは過去4年間でSABミラーとアンハイザー・ブッシュ・インベブの株式を取得、グローバルカンパニーとして独自のポジションの確立を目指しています。キリンは健康食品、バイオケミカルといった、より収益性の高い事業に参入。サントリーはビール事業以外にも注力した海外展開を進めており、サッポロは海外ならびにフードビジネスにリソースを転換しようとしています。
ビール業界世界トップのアンハイザー・ブッシュ・インヘブは2015年に日本法人を設立して独自の流通戦略を展開、自社製品の売り上げを徐々に回復しました。しかし、そのアグレッシブなアプローチによる効果は投資額に比して非常に限定的だったと言えるでしょう。今後、この世界No.1ビール企業が日本のトップ4を買収する可能性はあるのでしょうか?短期的には不明確ですが、アジアでの最近の動きを見る限り、可能性は決して否定出来ないでしょう。
今後も日本のビール市場が新規参入者にとって魅力的なマーケットでありつづけることは間違いありません。成功の鍵となるのは、商品力とチャネルイノベーション、そして新しい角度から市場を捉えるためのパートナーシップをどのように構築していくか ― これらのことにかかっています。